ロックダウン26日目
本日の4時に政府からの発表があった。ロックダウン、来週の月曜日まで延長が決定。その後レベル3への引き下げが最低2週間。少人数で友人らと会うのは許されるもののソーシャルディスタンスは変わらず2mで、飲食店もデリバリーのみの再開。基本自宅待機の姿勢を崩さないようにと言われている。これはいよいよ本格的な人員コスト削減でリストラも各地で増えて来そうだなと思った。自分ももちろん対象に入っているので職がなくなったらまた探すしかないと思っている。今回のことは予想がつかない事態であり、なるようにしかならない。
今を生きる。これに尽きる。
NZでのロックダウンも間もなく4週間が過ぎようとしている。散歩とスーパー以外の外出が許されていない自宅隔離生活にもすっかり慣れて来てしまった。日々自分で決めた時間割をこなすのもなかなか楽しくなって来た。人間には環境適応能があって良かったと思った。こういう時こそ文句や愚痴を吐かず、いかに精神衛生をいい状態に保つかが重要である。
シェアメイトの子どもたちは、担任の先生とのマンツーマンオンライン会話を15分ほどして、近況報告をしていた。週に1度程度せはあるが、こういった取り組みを日本でも取り入れられたらこどもたちが安心して過ごせるサポートにつながる気がした。
今回は昨日のアーグラ編の続き。
まだ日が昇る前に起床し、歩いてタージマハルまで行くことにした。その方が観光客も少なく見学しやすいと地元の人から聞いていたからだ。厳重なセキュリティチェックを受け、いざタージマハルへ。
タージマハルとは、今から約400年ほど前に、ムガール帝国第5代皇帝シャージャハーンが、1631年に死去した愛妃ムムターズ・マハルの為に建設した墓である。彼女を深く愛していたジャハーンは、22年もの歳月をかけて総大理石の白を基調とした美しい墓を建てたそうだ。
それが後に世界遺産として世界中の人々がタージマハルを観にくることになろうとは二人とも想定外だったと察する。よくよく考えると有名な建築物こそ世界には沢山あるが、ここまで壮大で存在感のある墓はタージマハルくらいなのではないかと思う。
ゲートをくぐると広い庭園が広がりその先にタージマハルがある。近くで外観を眺めると大理石に花やアラビア語が彫られ、ルビー、サファイヤ、ダイヤモンドなどの宝石も散りばめられており美しくて惚れ惚れする。全体を遠くから眺めるのも良いが、そばでじっくり見るのがおすすめだ。当時、国内外から2万人の職人がこの建設に関わったとされ、インド中から1000頭の像が建材を運び、28種類もの宝石が使われたと諸説にある。人と像による壮大すぎるプロジェクトだ。
400年の時を超え、今もなお世界中の人々を魅了し続けているタージマハルは、2人の愛と権力を象徴するものだった。
再びゲストハウスに戻り、朝食を取ってゆっくりしていると
10時に予定通りマトンがゲストハウスに迎えに来た。頼んでもいないのに強引にもほどがある。
そして僕がアーグラの観光スポットを紹介するよと言って来た。特に予定もなかったのでお願いすることにした。さっそくトゥクトゥクに乗り込むと隣に見知らぬおじさんが座って来た。
しかもすごくナチュラルにまるで既に決まっていたかのように笑顔で乗車してきたのだ。
誰。
するとそのおじさんは、マトンとは親戚で彼の叔父だと言った。いやだから何なんだ。
観光しに行くのにおじさんがオプションで付いてくるなんて聞いてないぞと、早くもマトンに不信感。
おじさんは何度か咳き込んでおり明らかな体調不良者に見えた。すると今日はホリデイじゃから一緒に観光に付き合うよ、ゴホッッ。ゲホッッ。良かったら日本から持って来た薬をくれないか?
ツッコミどころが満載すぎてどこから切り込んで良いか分からなかった。まず、体調が悪いのに観光に一緒に行くのもナシだし医者でもない私が薬を処方するなんて出来ない。万が一薬が身体に合わなくて目の前で倒れられたら犯罪者になる。
とりあえず薬はないよ。家で休んだ方が良いんじゃない?という提案をしたら、なんで薬持ってないの?旅行者は皆持って来てるよ。日本の薬はグッドクオリティなのを知っていると言われた。このおじいさん薬をただでもらうために乗車してきたんだろうなと思った。咳をしながらも今日はアーグラを楽しんでくれと言わんばかりに微笑みかけてくるおじさん。
このカオスな状況に困惑しながらも3人のアーグラ観光が始まった。
後によくよく話を聞くと、彼はマトンの叔父ではなくマトン父の友達だった。
ますます関係ない人とのあいのり旅となった。
しばらく走っていると車内で喧嘩勃発。昨日交渉の際に提示して来た金額の2倍の料金を支払えとマトンが言って来たのだ。これもインドあるあるである。とりあえず冷静に話をするも、聴く耳を持たない彼と険悪なムードの中、アーグラで有名な大理石のお店に連れて来られた。ショッピングには興味ないと言ったのにまたバック目当てか。と思いながら店に入ると日本語ペラペラのインド人オーナーに手厚くもてなされ、心を許し、インドであった詐欺被害や今一緒にいるマトンについてあれこれ話し、大理石の皿を買うことになった。(このときすでに心が乱れており正常な判断ができていなかったと思われる。)
しかし頼りがいのあるオーナーがマトンに、料金を値上げしないように話をつけてくれたのだ。これはありがたかった。
またインド政府公認だと謳っていた旅行会社のチケットを見せると彼は真剣に話し始めた。
この列車チケットは本物だけれど政府公認というのは嘘だ(判子が本物と違ったらしい)そして、インドに女の子一人でくること自体危険で辞めた方がいいのに、発車時刻を見る限り君が今日乗る予定のジャイプール行の列車は深夜23時着になっているよ。こんな夜遅くに女の子がインドの駅に降りたらどれだけ危険かは誰にでも予測できる。あり得ない旅行会社だ。この列車には乗らずにバスかタクシーに切り替えなさいと言って怒ってくれた。このタイミングで良い人に出会えて良かったと思った。
行き先と日程を重視したあまり、彼らが予約した列車の時間を全てチェックしていなかった。(これは私に落ち度有)
生憎バスは予約で一杯だった。途方にくれ、マトンのところへ戻ると先ほどのことでまだ怒っていた。おじさんがランチをしようというので昼ご飯を食べに向かった。その道中でまさかのおじさんの説教が始まった。君はなんでマトンに対してそんなに怒っているんだ。せっかく観光で来ているのにもったいない。と、あたかも私に全ての非があるように話しだした。
昨日からのマトンの言動について言及すると、おじさんはそれはマトンも悪い。お互い仲直りをしなさい。と無理矢理な仲直り宣言を発令。何故かおじさん立ち会いのもと、良い大人がsorry とお互いに言い合い握手させられた。
お店では、それぞれがカレーを注文。
余談だが基本インドでは、3食毎日カレーがスタンダードなので、今日のランチ何食べる?ではなく、今日は何味のカレーにする?が決まり文句である。
そしてカレーを食べながらおじさんがまたおせっかいなことを言い出した。まあ仲直りもしたし、マトンもいい子だから昨日交渉した料金に感謝の気持ちのチップを渡した方が良いと言って来た。今までで最も払いたくないチップだったが払うことにした。すると、え、これだけ??というような二人の苦笑いに心底イライラしたのだがここは感情を無にして、上乗せして支払った。結局交渉料金の2倍の金額になったのだった。もうこのときにはどうにでもなってしまえと、心がだいぶ荒んでいたと思う。
その後おじさんは残った食事をテイクアウトの容器に入れて、道にいるホームレスに渡していた。
最後に優しい一面を知ることができて良かった。
2人と無事に別れてなんとも言えない開放感に包まれた。
アーグラでは、インドに来て初めて自分の中にある怒りという感情と向き合った。自分がいかに未熟で無知な人間なのかも思い知らされた。インドでは、いかなるピンチの時も人としての行いや振る舞いが試されているなあと感じた。
詐欺旅行会社の列車のチケットも無駄になり、タクシー(超高額)で6〜7時間かけてジャイプールへ行くことに更なる不安を抱えながら、旅はつづく。