すっかり前回の続きの投稿が遅くなり、気づけば2021年になり1週間が経ってしまった。
更新が遅くなったのは、時の流れの早さのせいということにしておく。
今回はケニア後編、2019年大晦日に起きたハプニングについて綴っていく。
そもそもこの旅行は、夫がアフリカから自転車旅をスタートしたことで実現したものだった。
いつの日か、アフリカの大草原で弱肉強食のリアルライオンキングの世界をこの目に焼き付けたいと思っていた。
それが現実となった2019年12月31日大晦日27歳10ヶ月の朝。
貸し切り4WD車に乗り込み、日の出前の早朝から出発。
7時間ほどマサイマラ国立自然公園を回るツアーに参加した。
マサイ族のマークが運転兼ガイドをしてくれた。出だしは好調だった。マサイ族の特徴として噂にも聞いていた通り、数キロ先の動物をも捉えることができるずば抜けた視力を発揮したマークは得意気に様々な動物を見つけては、近くへ寄って観察させてくれた。
無意識に大声でライオンキングのテーマソングを歌ってしまうほど、気が大きくなりテンションが上がっていた私とは対照的に、夫は望遠レンズ付きのカメラで写真に夢中で無言だった。
ライオンキングの曲も知らなかったのでハモることもできず、興奮しているのは車中私のみだった。
そんなこんなで、お目当ての主役探しに俄然やる気のマークがついにライオンを捉えた。
これは並外れた視力に頼るのではなく、他のツアー車が何台も止まっているエリアを発見したので、とりあえず行ってみるか作戦である。
そこには、優雅に寝転ぶ2頭のライオンキングがいた。あまりに堂々としていて、微動だにしない様子に緊張感が走るとともに、テンションはMAXだった。
マークも今日のメインイベントは終了したので気を良くしたのか、更にライオンに近づこうと彼らのすぐ目の前に車を移動させた。
次の瞬間、不快な音が車内に鳴り響き、急停止した。
沼にハマったのだ。しかも前輪後輪どちらも完全にどっぷりと埋まった。辺りを見渡すと、他にも2台ほどスタックしており、他のツアーガイドや男性のツアー参加者全員で押していた。
マークもサービス精神旺盛なあまり、注意を払わなかったのだろう。勢い良くサバンナの中心で沼の餌食となったのだった。
ただ沼にはまっただけならまだしも、2m先にはキング2頭がこちらを蔑んだ目で見つめている。
そして数分後、私たちの車の方へゆっくりと歩いて来てあきれ顔をチラ見せしながら、草原の彼方に歩いて行った。
目と鼻の先にライオンが来たことで、やや恐がりの夫は大パニックだったが、私としてはここ一番のテンションの高さで車の天井から身を乗り出して静かにライオンを見つめた。
憶測だが、ゆっくり昼寝をしようとしていた矢先に、何台もの車が自分らを取り囲み、沼にハマられたらうるさくて溜まったもんじゃないだろう。うんともすんとも動かない車中で、ライオンに同情したりなんかもした。
そこから2時間が経過したころ。周囲の助けもあり、ようやく沼地獄から脱出できた。
炎天下の中車に閉じ込められていたので疲労困憊しており、草原のど真ん中でランチ休憩をすることにした。
マサイ族は特有のカラフルな布を腰に巻いており、マークはその布のテーブルクロス代わりに車のボンネットに引いて、パンや卵、バナナなどを振る舞ってくれた。
地平線を見渡せる大自然の中で食べた素朴なランチは、最高に美味しかったと記憶している。
その後、先ほどの沼にハマった時間を取り返そうと、今度は遭遇するのが非常に難しいと言われているヒョウを探しに行くと言い始めた。ヒョウとの出逢いを求めて、一心不乱に大草原でアクセル全開のマーク。
しばらくすると、不快な音が車中に響き渡り急停止した。
お察しの通り、再び沼にハマったのである。
しかも今回は不運なことに、サバンナの中心部からだいぶはずれた草原の沼で、辺りを見渡せど同じツアー車は走っていなかった。
電波も入らないので、助けを呼ぶのも困難であった。マークも何度かレスキューのため無線や携帯で呼びかけを試みるが、どちらも繋がらず、途方にくれていた。
日が暮れたら帰れなくなるから、ここでキャンプかもな。とまで言い出した。
さすがにハイエナやライオンのいるエリアでハッピーニューイヤーは不気味すぎて辛い。
夫も絶望感に浸り、すぐに窓やカーテンを閉め厳戒態勢に入っていた。本気で死ぬかもしれないと怯えていた。
私は楽天的な性格なので死にはしないだろうと思いながらも、一日の大半沼の中にいるのは勘弁だなあと思っていた。
そこから3時間が経過した頃、ほぼ使用不可だったスマホのLINEだけが数分に一回使えるようになった。
このチャンスを逃してたまるかと、日本にいる夫の家族に連絡し、国立公園内の宿泊しているキャンプ場にレスキュー要請を頼んだ。しかしグーグルのGPSがあると言っても、道のない大草原にスタックしている我々を探すだけでも一苦労だったようで、要請から約2時間後に、ようやく救出されたのだった。
そして、ヒョウにも出会えないまま、日も暮れて満点の星空をぼんやりと眺めながら、キャンプ場へと戻ったのである。
新年を祝う気も失せるほど疲労感に襲われていた我々は、年が明ける前に肉食動物たちの遠吠えを聴きながら泥のように眠った。
大晦日の日にサバンナで2度も沼にハマったのは、日本人では私たち夫婦くらいだなと思う。
無事に生還できたので今ではネタでしかないが、動物を探すのに必死すぎるあまり沼にはまるのは代償が大きすぎると思ったのが率直な感想である。
おわり