さんぽがあまりすきでないという夫に、しつこくさんぽの誘いを持ちかける妻。
ここ数日は、仕事を理由にことごとくかわされていた。
そんなある日。
夜にさんぽでもしに行く?と夫の方から珍しく誘って来た。
あんなに嫌がっていたのに急にどうした、機嫌を取りに来たのかと勘ぐってしまう。
しかし、夫の答えはシンプルだった。
よるのさんぽは好きなんだよね、と。
人を理解するということは容易いことではない。
さんぽ嫌いだと言うのに、夜に行くさんぽはすきだと言う人もいる。
夫は日中のさんぽがあまり好きではない人だった。
ということで、夜の8時頃からさんぽにでかけた。
化粧もせずにかみもくせ毛のまま。
ただ外をぶらぶらするだけだと思っていたが、夫は私のためにデザートがあるお店を探していた。
NZのカフェは4時には閉まるし、レストランやバーにはIDがないと入れないから(2人とも童顔故)諦めモードだった。
それでも探して歩いてみようと謎に意欲的な夫。ダメ元でいつも遅くまでやっているカフェバーに行った。
幸いにもIDチェックは免れた。デザートがあるか訪ねると、キッチンはもうクローズしたとのこと。
私が残念そうな顔をしたのを見かねたスタッフのお兄さんが、ティラミスなら残り1個で出せるよ!と、ナイス提案をしてくれた。
丁度食べたかったデザートがティラミスで、さらに残り1個だということで、幸せが倍になった。
甘いティラミスとコーヒーを飲みながら、今後の将来のことについてうまく吐き出せる良い時間になった。
カフェを出て、海沿いをさんぽした。風も冷たくて肌寒い。
でもよるさんぽ限定のオプションがあるなあと、気持ちが高ぶった。
ふと見上げてみると、星が綺麗だった。そういえばこちらに越して来てしばらく星空を眺めていないことに気づいた。
NZの星を見ることに慣れてしまっている自分にも気づいた。でもまた、美しいなと思えた。
目を閉じて音の世界に浸ってみた。2人さんぽで長くつづく一本道という条件さえあれば叶うこと。
手をつないで、歩く道を安全に確保してもらえると、安心して目を瞑って歩けるものだ。
ひとりだと怖くて1mも歩けないのに。とても不思議な気分だった。目の前は真っ暗な世界なのに隣にいる夫の声と波の音が重なる。
今いる世界はどこでもない私だけのものだと、優越感にも浸っていた。
そんなおかしなことを急にはじめても、気にもとめずに話し続けるマイペースな夫。
これからも、どこにいたってありのままのわたしたちでいていいんだなって、肯定してもらった気がした。
また夜のさんぽをしようね、と誘ったら、夫はうん。と和やかに返事をした。
おわり